
タイトルは『九州美少女写真館』(海鳥社)
A5判/400ページ 著者: 稲原豊命(いなはらとよのり)
稲原さんと出会ったのは、僕が二十歳の頃、まだ本格的に写真を始める前だった。
就職しない若者=フリーターという存在が異質で、メディアに叩かれていた頃、僕はオーストラリアを巡るバックパッカーの旅から戻ってきたばかりで、これからどうしようかと考えていた矢先だった。
郷里に戻ると、以前のバイト先であるパルコの宣伝部にいたS氏が退職し、雑誌を作っているという。
興味を持ち、遊びに行ってみることにした。
雑居ビルの最上階にある「編集部」は、稲原さんの事務所兼暗室だった。
酸っぱい酢酸のにおいと暗幕に覆われた部屋、そして近所で拾われてきた子猫が一匹。
壁には所狭しと、印画紙にプリントされた白黒写真が貼られている。
その薄暗い場所が僕と写真との、本格的な出会いだった。
二十代のはじまりは、自分が何者かになってやるとか、漠然とした夢だけがあったけど、どうすればそこに向かって行けるかなんて、具体的な目標はまったくなかった。
自分たちで雑誌をつくる。
しかもフリーペーパーではなく、商業出版物として通用するものを。
そんなチャレンジは、とても魅力的に見えて、毎日事務所に遊びに行っているうちに、いつの間にか雑用をやるようになった。
赤字で給料も出ないのに、変わってるよ。一日に何度も電話してきて、手伝いたいなんて。
そんなことを言って、面白がってくれた。
代表の稲原さんは写真家であり、新しく生まれた、僕たちの雑誌の編集長だった。
「君も写真を撮ってみたら?」
荷物持ちとして同行しているうちに、僕はすぐに中古の一眼レフを買った。稲原さんが持っているものと同じ、スチール製のキヤノン、A-1。70年代に一世を風靡したカメラだ。
「写真は習うものじゃないから」
感じるものだ、思うように撮ったらいい。
そんなこと言ったって、せめて露出ぐらい教えてくれてもいいじゃないかと思いながら、カメラ雑誌を読み、ハードコアバンドのLIVE撮影に通い、やがて夜のスナップを撮るようになった。
写真家は、繊細で、だけど気分屋で我がままな生き物だ、と知ったのもこの頃だ。
使っていいよと言われたモノクロの暗室に入り、火のように怒られたことがある。
マイルス・ディヴィスのレコードをかけながら、夜中にプリントをするその場所は、稲原さんだけの聖域だったからだ。
LIVEの写真をライトボックスで見ながら急に不機嫌になり、「音楽がまったく聞こえないぞ!撮り直しに行け!」と怒鳴られたことも一度や二度じゃない。
いつも『自分にしか撮れない写真を撮れ』とうるさく言われた。
僕は、誰にも写真を習わずにやってきた。
だけど、二十代の僕にとって唯一、「師」と呼べる存在があるなら、それは間違いなく稲原さんだ。
ずっといままで、そのことを認めたくなかった。
女手ひとつで育てられ、父親という存在を知らなかった僕にとって、それはきっと、子が親に反発するような気持ちだったのだと思う。
僕たちが創刊した雑誌はやがて軌道に乗り、東京にも進出した。Tokyo Graffitiという月刊誌だ。
いろいろなことがあり、僕は離れ、違う道を進むことになったけど、いまでもGraffitiには稲原さんの思想、精神が受け継がれている。
稲原さんは、何十年も前から街角に立ち、ペンタックス67で美少女を撮り続けている。
モノクロームの、やさしい視点。
長玉、望遠レンズ150ミリの絞り解放、頑固なまでに同じスタイルだ。
頑なで、絶対にぶれないこと。正面から向き合うこと。
その姿勢からは、写真家として、また人生にとって、一番大切なことを教えてもらったように思う。
いままで雑誌を作ってきたけど、いつか、写真集だけで採算が取れるような形を作っていきたいよね。
ひさしぶりに電話すると、明るく語っていた。
これからも、稲原さんは街角に立ち、撮り続けるだろう。
「美少女写真館」は、珠玉のポートレート集だ。
時代を超えた美少女たちの素顔。
少女は、やがて大人の女になり、母になる。
人生の合間の、一瞬の美しさが写し撮られている。
その美しさは、きっと永遠であり、普遍的なものだ。
書店で見かけたら、ぜひ手に取ってみてください。
http://www.kaichosha-f.co.jp/pages/oshirase/bisyoujyo-tirasi.jpg
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作品WEBサイトはこちら
http://www.atsushiyamada.com
<プロフィール>
写真家。95年渡豪、路上の人々を撮り始める。帰国後、フリーランスへ。ファッション、グラビア、広告など幅広く活躍中。
富士フォトサロン新人賞2006受賞。
月刊コマーシャルフォト『100 PHOTOGRAPHERS』選出 (2007,2008)
月刊コマーシャルフォト別冊『PHOTOGRAPHERS FILE』掲載 (2009,2010)
その他、各メディアにて作品掲載多数。

1st 写真集『LOVE!LIFE!LIVE!』
全国書店にて発売中
(160P 1500円・税別)
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~Amazon 紹介文より~
夜の喧噪、クラブシーン、雑踏、日常を膨大なカット数で綴り、富士フォトサロン新人賞を受賞した作品がついに写真集として発売。
選考委員から絶賛された気鋭の写真家が、自身の原点となるストリートで巡りあう、一瞬のシャッターチャンスに挑む。混沌、エロス、すべてを内包し、感性を揺さぶる本作品は、生きる、ということそのもののメッセージである。山田敦士 衝撃のデビュー作。
<帯文より>
この写真集を最後まで見た後、僕は人間の『生』を感じました。
一人一人の人生が、この中に沢山詰まっています。
人生とは、本当に素晴らしいものです。
MATSU (EXILE)
過去撮影したArtists/タレント
新垣結衣,岩佐真悠子,小倉優子,木村コウ,川村カオリ,倖田來未,甲本ヒロト,小西康陽,櫻井翔,佐藤隆太,スザンヌ,スピードワゴン,鈴木亜美,田島貴男(ORIGINAL LOVE),田中知之,戸田恵梨香,野本かりあ,福富幸宏,藤木直人,ヒカル(BOUNTY HUNTER),宮崎あおい,矢口真里,Base Ball Bear,EMMA,EXILE,Hi-Fi CAMP,JAFROSAX,JESSE,KEN ISHII,MOTOAKI,m-flo,RAM RIDER,Rio,UNDERGRAPH,UZUMAKI 他多数
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